C86作品感想メモ2 明治浪漫ノベルスゲーム「蜉蝣」完結編(ネタバレオンリー)

前編をプレイしてから約1年半、待望の完結編。10月頃にプレイしたのですがクリア直後に「意識をあちら側に持って行かれる系の大作」クリア後特有の茫然自失に数日間陥っていたのと、その後仕事が忙しくて感想をまとめるタイミングを逸していたのですが、落ち着いたところで再読しつつ感想など。

なお以下は完全に本編最重要事項を含むネタバレですので、未プレイの方は上記ネタバレなしの記事へ移動するなり、そっとタブを閉じるなりしてください。

優しい物語は幕を閉じ、バッドエンドの後も人生は続く

他の人の感想なんかを見ると結構、考え込んだとか衝撃的だったとかいう反応がやはり多かった「本作ただ一度の選択肢」ですが、私自身は正直なところ、「まず下の選択肢のルート読んで次に上読もう」と淡々と選択しておりました。

感情の揺れ幅としてはその前の浮柚さんの告白の時点で既に振り切っており、選択肢のタイミングでは少し落ち着いていたこと。またメタい話であれですが重大な選択肢があることは完結編頒布前に何度か示唆されており構えてしまっていたことから、「トゥルーっぽいのを後にするかー」と半ば事務的に。この辺はスレたノベルゲー読みの嫌なところですね……(汗)。

さておき。その時想定していたのは下ルートがある意味バッド寄りのノーマルで、上ルートがいわゆるトゥルー。しかし結果的には、どちらが正解とかではなくどちらも真に、「失敗の後にも人生は続いていく」という物語でありました。多分、そうならない分岐点はもっと前にあって、要するにこれ、十波さんに村のこと知られた時点で詰んでた。

当時の感情の動きを思い出していたのですが、具体的には下ルートで延々と幽鬼のような征治さんを見てきて見送って、よし、いよいよだと上ルートに行き、浮柚さんも捉まえてほっと一息……というところでアレですよ。素で「え……え?」ってなりました。

それでも、弥十郎が銃を奪い取ってニヤリとしたところで「おっ、ここで逆転か」とほっとして……え?

その後、一太が出てきて、「そうか、親を失った彼がそれでも懸命に」……え?え?

んー。そりゃ代償なしに丸く収まるとは思っていませんでしたけど。そこまでとは聞いてねえよ。という気分でした(笑)。ここで最後に残っていた中途半端な甘えが消し飛び、改めて背筋を伸ばして物語と相対する姿勢になりました。

そして物語は結那ちゃん、いやさ結那さんの手に

そんな感じで三章から数年後が描かれる四章。個人的に一番驚いたのは上ルートでの結那ちゃんの成長ぶりでした。というかこれもう、ちゃん付けは似合わないですね。立派な女学生にして少女探偵。

ここまで主人公だった征治さんは失踪系ヒロイン(おい)という立ち位置になり、上ルートでは結那さん、下ルートではアンジェリカが主人公格という感じになりましたが、特に上ルートでは結那さんの少年漫画的主人公っぷりがアツかったです。ちょっと無茶して突っ走りすぎる所も少年漫画的ですが……。

最初に「こいつぁやべぇ」と思ったのは七条師と蕎麦屋での会談。機転のきく利発な様子が伺える軽妙なやり取りも良かったのですが、「村は厭だったか」と聞かれての返答が、綺麗事ではなくシビアに優先順位をつけた上で、それでも「皆殺しにされてしまうほど悪い人達ではなかった」と言うあたり、ほんとうに(ただの「良い子」ではなく)善き人に育ったなぁと。七条師とシンクロして涙脆くなってしまいましたですよ。

前編(二章)までのお話の中でも、結那ちゃんの成長ぶりを感じられる所はありましたが、正直今となっては、まだまだ子供だと思ってナメている所がありました。言葉にしないだけでこれだけのことを考えていたのか、という感慨。まあ、のちのち知識がついてきてから後付けで形成されたものも含むかな、とは思いますが。

そこからもアクティブな活躍ぶりを見せてくれましたが、個人的に印象深いのは以下の2点。

  • 征治さんにもらった「一緒に見ましょう。今晩は月が綺麗ですよ。」を征治さんに返す(またこの時の笑顔が!)。征治さんにもらった言葉を返す、というのは他にもいくつかあって、そのたびに胸が熱くなりました。
  • 自分自身の戦いをするため、あれだけ忌避していた「蛇」の牙を自ら任ずる所。ここはもう本当に一瞬呼吸が止まってしまい、その後なぜか笑顔でガッツポーズをしてしまったのを覚えています。「私を愚かな女子供、蟲同然と侮った事が命取りだ」とか何かもう、完全にノリがダークヒーロー(笑)。

とか、いやーもう結那さん流石に格好付けすぎでしょ!だがそれがいい!ってくらいにアツくてお洒落で。闇墜ちした元師匠を弟子が取り返す、という流れは王道ですが、これを結那さんがやってくれるとは、蜉蝣という物語で読めるとは本当に予想外でした。

ビジュアル的にも、茫洋とした幼少時の立ち絵から強い意志を感じる、そして笑顔含め表情豊かな利発少女への変化。さらには衣装変更も眼福もので。袴……いいよね……!

このシーンも何もかもすごく良かったです。尊い。
このシーンも何もかもすごく良かったです。尊い。

上ルート、最終的には浮柚さんがヒロイン的な立ち位置に復帰しましたけど、結那さんもなー、今は信頼、恩義という面が強く出ているけどもう少し成長したらどうなることやら。蕎麦屋会談で七条師に征治をどう思っているのか、と聞かれて父のような、兄のようなに続けて漏らした「それ以外も」というのが凄く気になっています。

結那さんの将来として少女探偵団みたいの妄想したりもするんですが、よく考えたら結那さんが動いたのはそれこそ身内のためなので、別にこれが生来の性質ではないか。でもキャリアとしては向いてると思うのですよね。探偵と護身術両方の師匠が身近にいるわけだし。あとマネージャーは文字覚えた姉ちゃんにやってもらおう(笑)。

俺が……俺達が明治浪漫だ!(違)

そんな感じで、上ルート四章は結那さんが主人公でしたが、最後はやはり征治さん。自分がかつて渡した思いやら何やらを結那さんから受け取って再び主人公に、という流れがアツい。そこまで受け取っておいて結局征くのかよ!という思いもありましたが、決着を、けじめをつける必要があるというのは確かにその通りだとは思います。

……だがこの後に及んで『此れを読んでいる時、私はもはや此の世にはいない。』はねーよ!! そこはせめて五分五分だとしても気持ち的には帰ってくるつもりで征こうよ!てかベタすぎんだろ!と思ったことは告白しておきます(笑)。

さておき。ラストバトルで一番胸に残ったのは「いつか今も、浪漫と呼ばれるようになるだろう。」という台詞です。ややメタい台詞でもあり、まとめに入ったなーという感慨もありつつ、ロマンティストとリアリストが絶妙なバランスで同居している征治さんらしい考えだなとも。浪漫を解する心とそれを切り捨てられる心、両方ないとこの達観は出てこないんじゃないかなという。自分自身をも舞台から去るべきと言い切れてしまうのも。

浪漫というものに対する考察は興味深いもので、ちょっと大袈裟ですが、自分の物語好きのルーツのひとつに触れた気もしました。失ったもの、もう手が届かないものをせめて物語として愛でていきたい。的な。

アンジェかわいいよアンジェ……とか言ってた頃が懐かしい

プレイ順とは逆になりましたが、下ルートについても。こちらはすっかり大人の女性になったアンジェリカさんを堪能いたしました。

これまた事前情報ベースの話になってしまうけど、アンジェリカのルートがあるというのは知っていて、ただ単純にヒロインを選ぶような話にはならないだろうとは思っていたけど、まさか征治さんがアンジェリカとどうにかなる話ではなくて、アンジェリカが征治さんをどうにかする話だったとは(笑)。

ただ、これは結局のところ解釈でしかないのだけど、上ルートが征治さんから結那さんにバトンが渡り、征治さんに戻ってくる話であるとすれば、下ルートは徹底的にアンジェリカ = カンティリバーが征治さんを見送る話であったと、個人的には思います。あとは十波の物語。象徴的なのはやはり、刀を託されて、あの笑顔を向けられた所かな……あれはあかんです。あんなんもう、どうやっても届かないと思い知らされるしかない。

再び吉野征治の物語が始まる、という所で「蜉蝣」としては終わり、あとは読者の心の中に……って感じかなと10月当時は思っていましたが、スピンオフが出るようで。これは楽しみです。

 そのほか徒然なるままに

  • 体験版から数えて一~二章は3周くらいしたので流石にもう流すかな、と思ったら冒頭でいきなり演出追加されていて流せない(笑)。イベント絵の追加などもあり、結局読み込んでしまいました。
  • 時代ものということもあり、テキストは一般文芸的。ただそれにノベルゲームとしての間や余白が加わって画面に遊びがあり、文字が詰め込まれていないのが読みやすかったです。全画面ノベル形式だけど、テキストウィンドウ型ADV的に近い文章の区切りが意識されている感じかなぁ。
  • 征治さん、治療に入るとき今風に言うと「スイッチが入った」感じになったり、女性関係のことで照れて無性に銃の抜き打ちをしたがるあたりは、ちょっと中二っぽくてカワイイですよね(笑)。いやまあ中二も何も生かすことと殺すことの最前線を見てきた本物なんですが。でも世が世なら治療モードになりつつ「俺は自動的なんだ……」とか言いそう(言いません)。
  • 情けない弥十郎のテーマ曲みたいなBGMありますよね、ちょっと祭り囃子っぽい奴(笑)。弥十郎ほんといいキャラだなぁ。……いいキャラ……だったな……(涙)。どんな恰好して上京するんだろう、と思ったら存外に格好良かった。
  • 三章入ってからの、征治さんと弥十郎の関係性がすごく良かったです。気の置けない同性同年代らしい会話とか、ここぞという時のお互いを信頼している感じとか。肩の力が抜けて屈託なく話している征治さんが見られる貴重な機会だったり。このまま村長と顧問という間柄になっていたならば……弥十郎……ううっ(涙)
  • 「横たわる浮柚さん」はほんとやられました。もちろん生きてるわけはないんだけど、一瞬「高山だし凍結してるのかな」とか油断した次の瞬間にアレ。それはそれとして、一枚絵としての美しさとしては、美麗な「蜉蝣」のグラフィックの中でも一際抜きんでいると思います。ある意味幻想を描いたものですしね。それだけに変化のギャップも凄くて、いやーほんと「まんまとはまった」感が強いです。CGモードで見返すとき、わかっててもクリックすると一瞬ドキッとするもん。
  • ギャップといえば、村では皆に頼られる有能な巫女さんという立ち位置だった浮柚さんが外に出たらあの情けなさ(仕事初日のエピソードとか痛々しくてもう)。対して、村では忌み子であったが外で利発に育った結那さん。環境の違いにより認識ががらっと変わるというギャップが面白く。
  • さらにギャップといえば……浮柚さんナース服!
  • というか正直、四章入ってから浮柚さんへの評価はやえさんに近いものがあったのですが、「死神」との相対で徐々に変わっていき、そして「ほっとしてしまった」で浮柚さんの殻の中についに触れられたという感慨。そこからの三人娘、三者三様の戦いが、アツい。
  • ていうかやえさん怖すぎです(笑)。いや最後まで読めば行動原理とかはわかってくるんだけど……。線引きのはっきりした人、という印象。結那さんと浮柚さんへの接し方の違いがすごく顕著ですね。そのロジックが明確すぎるのでぐうの音も出ない。征治さん評も的確で、だからこそ怖い。「ならば山奥に庵を結んで生きるのが、あの方には良いのです」ばっさりしすぎ!
  • やえさんの昔の話は、征治さんとの関係も含めもうちょっと知りたいなと思いました。それはもちん「蜉蝣」の物語の範疇外なんだけど、どこかで別の機会があると嬉しいな、とか……。
  • さて。ここからはあくまで「自分が感じ取って、想起したもの」であり、作品そのものとは一切関係ありません。と前起きした上で。
  • 明治繋がりってのは大きいけど、征治さんと結那さんの関係性に、「るろうに剣心」の剣心と弥彦を思い出したりしました。戦いに疲れて一線を引いたつもりが何だかんだで頑張っちゃうオッサンと、それを見て、話を聞いて志を継いだ若者。闇落ちした主人公を照らして引っ張り上げる役、という意味では燕ちゃんもちょっと入ってるかしらん。みたいな。
  • 「…結那ちゃん。今日見た俺は、亡霊だったと思いなさい…」征治さんの格好いいダメっぷりが凝縮されたシーンですが、「機動戦艦ナデシコ」劇場版ででルリルリを突き放すアキトを思い出したり。でも結那さんはちゃんと征治さんつかまえたよ!
  • 「ファタモルガーナの館」との共通項についてもメモしておきたいと思います。時代浪漫というバックグラウンドもですが、何よりわずかな光を頼りに長い長い薄暗がりを進んでいく展開。そしてウェットで抒情的な物語かと思いきや、存外に少年漫画的なアツい展開もある所とか。「認識の転換」が話運びにおいて重要な点もかな。西のファタモル、東の蜉蝣(何)

全然まとまらないけど、ひとまずそんなところで。

 

 

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