C83作品感想メモ11 西洋浪漫サスペンスホラー「ファタモルガーナの館」

ファタモルガーナの館

住む者が不幸になるという館を舞台に、いくつかの時代にわたって語られる壮大な物語。約1年半前に一章体験版をプレイしてから完成を楽しみにしていましたが、今回の冬コミでついに完成!というわけで先週くらいに一気にプレイしたので感想など。

なお、本作はありとあらゆる点で、先入観が、印象が、予想が覆されていくのが楽しい作品。まっさらな状態でプレイしたほうが絶対面白いです。というわけで、未プレイの方はここでそっとブラウザーのタブを閉じることをお勧めします

また、基本的には核心的なネタバレは避けますが、やっぱりどうしても書きたいことがいくつかあり、末尾に記載しています。ネタバレ前に改行を入れていますが、なにぞとご注意ください。

悲劇と絶望……だけじゃないッ

序盤の大まかな筋書きは公式や窓の杜の紹介記事参照ってことで省きますが、記憶のないまま館を訪れた「あなた」は、ミステリアスな女中に導かれてまずは時代の異なる3つの物語を追想します。

「悲劇と絶望の西洋浪漫サスペンスホラー」と銘打たれれるだけあって、人の因果と業に思いを馳せたり、意外な展開に驚いたり、悲しいすれ違いに目が潤んだり。美麗なグラフィックに目を奪われたり……と、「お話」としては凄く堪能していたのですが、視点としてはあくまで傍観者で、「良く出来たお話を聞いている」感覚。自分の場合、割と物語に没入するタイプなので、勿論凄い作品ではあるけど、ストライクゾーンからは外れるかな?などと考えておりました。

……結論としては、全くの取り越し苦労でした。四章から五章への流れにかけて自分を取り戻し、あるいは「役割」の殻を破り、いよいよ舞台に立つ主人公とヒロイン。明かされていく真実。と思ったら「明かされた真実」にすらまだ真実が隠されていたり。主人公はもちろん、プレイヤーも傍観者だなんて言ってる暇はありません。「語り部と聞き手」から「ヒロインと主人公」への転換が見事でした。

そしてすべてが集束する最終章。他人事から自分自身の物語へ。そして最後には、他人事だと思っていた物語にすら、変則的な形ではあるけど関わっていくという流れが熱く。主人公と完全に同調・没入して、先へ先へと突き進んでいるうちに、気付けば2日間ほぼぶっ通しで読み切っていました。

ええ、熱いんですよ。とくに主人公が。これも先入観がひっくり返ったところです。確かに悲劇も絶望もあります。というかほとんどです。どうしようもない人間の業をこれでもかと見せつけられます。でもそれだけじゃない、弱さも強さも、醜さも美しさも両方あって人間だ!と感じさせてくれる物語でした。そして、語弊はあるかもしれませんが感じたままを言ってしまうと、これって「惚れた女のために、絶望を乗り越えて強くなっていく話」ですよね?みたいな(おい)。

もちろん実際はそんな単純ではないけど、自分がどうしてもそういう話が好きなので、そう解釈してしまいました。さらに、ヒロインだけじゃなく、関わった全ての人の幸せを願わずにはいられない。そんな熱血主人公に惚れ込んだのです。

それも、特別な力を持つわけではなく、すべてを見てきた知識と想いの積み重ねによって、事態を打開していくのがまたいいんです。ここまで語られた物語は、そのためにあったんだと思うと、バラバラだと思っていた物語が結局すべて繋がるんですよねえ。プレイ時間20~25時間ほどの長編ですが、このボリュームだからこそ描けた「いくつもの人生」が、主人公の力になっているのが感慨深く、納得感があります。

すべてが繋がるといえば、「白い髪の娘」が、三章では他の章に比べてよりその章の主人公に近く、あと一歩でうまく行くところだったのも、後から思えばちゃんと理由があったんだなあとか。小さなところまで、実はあらゆることに意味があり、伏線になっているのが面白かったです(領主の日記まで……!)。

さておき主人公の話に戻りますが。ビジュアル的には、五章でヒロインが館に戻ったときのイベント絵がめちゃくちゃ格好よくて好きです。絶望しかなかったヒロインに光を射すような、ヒーローっぽい凜々しさ。ここは立ち絵も格好いいです。

西洋浪漫夫婦漫才について一言

「だけじゃない」繋がりで言うと、熱さもですが適度なユーモアもあり。重くなりがちな物語の息抜きになっていました。舞台は中世から近代の西洋……なのですが、意外とぶっちゃけ系というか、「スルー」とか「イケメン」とか「へたれ」とか、現代日本語めいたネタが散りばめられています。

最初はどうなんだろう……とも思っていたのですが、主人公とヒロインの、絶妙な夫婦漫才(女性上位)っぷりを読むにつれ、「これはこれでアリだな!」という結論に(笑)。人によっては気になるかもしれませんが、メタ的に言えばそもそも現代日本語で喋ってる時点で翻訳が入ってるわけで、「スルーとかイケメンとかに相当する当時の諧謔的な語彙」を使っていると思いねぇ。

さておき。シリアスなシーンでも、どこかしまららない二人が本当に微笑ましいのです。上記で述べた、五章でヒロインが館に戻ったときのシーンの主人公も、立ち絵は格好いいのですが、珍しく激高したかと思ったら「え、ちょっ、待って、何言ってるの」みたいな感じでトーンダウンしていくのが、凛々しいポーズとのギャップもあって可笑しかったり。他には、「大変申し訳ありませんでした……ッ」「どもんないで」あたりも声を上げて笑っちゃいました。また、そういう直接的なネタシーン以外にも、すべてを取り戻した二人の他愛のないやり取りがまぶしく、微笑ましかったです。

また、終盤では二人から(直接的には一人ですが)伝染するような形で、ほかのキャラクター達もどこかおかしみを感じられる存在になっていくのも、ある意味では主人公の頑張りの一環と感じられて、妙に嬉しかったり。

ゲームとしての「ファタモルガーナの館」

覆された先入観という話でもうひとつ。というか、単に私がつまらない先入観を持ちすぎていただけという気もしてきましたが。

体験版を読んだ段階では物語重視、逆に言えば基本的には「読むだけゲー」かなという印象でした。確かに、いくつかのifエンドはありますが基本的には一本道です。しかしそこに至るまでの道程には、さまざまな形でゲームとして、プレイヤーが物語に関われる場面がありました。

その筆頭はやはり、四章の履歴画面ですね。気付いたときは背筋が凍りました。一瞬、記憶が飛んだかとも思ったのですが(笑)。物語の隙間に潜む魔女をプレイヤーが見つけ、主人公に正しい道を指し示す。ここは物語の流れとしてもゲームとしても、まさに主人公とプレイヤーが一体になっていく瞬間だったと思います。

他にも、変化する選択肢などにより、選択肢が心情描写の役割を果たしている場面などがあるのですが、とくに印象に残ったのは、やはり「白い世界」でのあれでしょうか。最後の選択肢、なんか位置がズレてるんですよ。いかにももう一つ選択肢が隠されてそうな。時間で変換するのはその前にもあったので、「もしかしたら……」と10分くらい放置してみました(笑)。でも変わらなくて、他に思い当たる出現条件もなくて、「ああ、そういうことなんだな」と思い至ったり。この10分間、私は主人公と完全に同調していたと思います。もっとも、その時は単に考えすぎかとも思っていたのですが、クリア後にサークルさんのブログ(ネタバレ注意)を読んだら、やはりそういうことだったようです。

演出、と言ってしまえばそれだけのことなのかもしれませんが。何というか、作り手の、「ゲーム」という媒体に対するこだわりが感じられて、ノベルゲー好きとしてもほんのり胸が熱いのです。ほかにもサブリミナルっぽいシーンなどもあり、とにかく色々な意味で「目が離せない」内容でした。ノベルゲーだけど、常に画面に集中してなきゃって感じで、プレイ後には心地いい疲労感がありました。

その他ちょっとした感想

  • 三章までの主人公ではヤコポが好きです。他の二人に比べれば行動力もあるし、ほんとあと一歩だったのになー。白い髪の娘も三章が一番可愛い、というか(すれ違うまでは)一番お似合いのカップルかなと。「フェナキのおもちゃ」って言い方がもうね。
  • マリーアさんの「~じゃんか」って口調が好きです。
  • 後に出てくる方のネリーが天真爛漫でかわいい! 一章のは小さいのも大きいのもかわいくないです(おい)
  • 曲はGiselleとCicioがとくに好きです。透明感のある歌声が素敵。あとMore the timeはピアノのイントロが印象的。いいなと思う曲はたくさんありますが、なかでもしっとりとしたピアノ曲がどストライクでした。
  • 音楽については、たまに「これ、もしかしてシナリオの展開に応じて動的に曲の展開変えてる?」とか思うことがあったのですが、流石にそれはなくてたまたまでした。でも、それくらいマッチしててびっくりなのです。

以下、核心的に近いネタバレがありますので、ご注意ください。とりあえず改行します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなもんかな。一応検索避けに、ネタバレ中の超ネタバレについいては伏せ字を併用します。

どうでもいいことを勝手に考察シリーズ:魔女の力の及ぶ範囲について

何となくプレイ数日後くらいに風呂場とかで妄想したことを垂れ流してみるテスト。モルガーナは自分を死に追いやった人達を憎み、不幸になる呪いをかけました。では、どこまでが呪いのせいだったのでしょう?という話。

作中から読み取れる範囲だと、モルガーナは呪った相手を似たような境遇に生まれさせる因果律操作と、その時代のその場所に館を出現させる能力があるようで。あとは館の中に関してはある程度の物理干渉も可能と。

ただ、「人の心を直接操れるわけではない」んですよね。それができるなら女中を長い年月かけて言葉責めにする必要もないし(笑)、ミシェルも陥落させることができたはずで。三章までの物語において、モルガーナが実際にできたのは「舞台を整えること」だけで、不幸になるかは実は当人達次第だったんじゃないか、なんて思ったりしました。

しかし、「あの時代」から彼らの魂に変化はない以上、彼らの行動にも大きな変化はなく、結局同じような悲劇になってしまったという解釈。そう考えると全部モルガーナさんのせいにするのも可哀想かなとか(笑)。彼らの性質は、モルガーナがどうこうする以前の話ですから。むしろ彼らのそんな性質のせいでモルガーナがああなっちゃったので、因と果が逆転しているとも言う(適当なことを言ってみた)。

というのはあくまで二次創作的な解釈ですが。もっとメタレベルで「過程はどうあれとにかく不幸にな~れ♪」っていう呪いをかけたと考えたほうが自然かもしれませんが、ミシェルが最終章で「アレだってお前らがちゃんとしてれば何とかなったかもしれないじゃんか(超意訳)」的なことを言っていたことから、こんな事を考えたのでした。

そしてオチはなし!

ついでに、ちょっとした感想ネタバレ版

  • 本作最大の秘密、ミシェルの再生のはずの○い髪の娘が「○い髪の娘」なのはなぜ?(最終的には誤解だったけどミシェルが隠していたことが暴かれるきっかけになったアレ)の件ですが、転生もので、魂と肉体の○○は必ずしも一致しないとか割とあるもんだと思っていたので、真実が明かされたときも「あ、そこ驚くポイントだったんだ」と一瞬ノリそびれました。すぐに、「本作ではそうなんだ」と理解しましたが。
  • ○い髪の少女の結末。すごく切なかったですが、「超常的な存在でもすべてを知っているわけではない」ことは作中で示されています。なので、○○ではなく還元なんじゃないかなあ、とか希望的観測をしてみたり。と思ったら舞台裏でマリーアさんがまさにそれっぽいことを言っていました。そう考えると、舞台裏に出てこない、というのも違う意味を帯びてくる気がします。(例によって独自解釈だヨ!)
  • 舞台裏といえば、「本編を台無しにする場所」という警告がありましたが、全然そんなことはなく、むしろキャラクターをもっと好きになりました。素を取り戻したモルガーナは確かにめっちゃ可愛い(笑)。もっと見たいですね。現代版○○○×モルガーナとか!
Pocket

1件のコメント

  1. ピンバック: にきログ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です