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- 蜉蝣-前編-/鴨mile
- 【週末ゲーム】第507回:同人ゲーム体験版特集 2012冬 – 窓の杜(体験版の紹介記事)
明治三十二年の日本を舞台に、戦地帰りの青年、吉野征治を主人公とした「明治浪漫ノベルスゲーム」の前編。概要については上記体験版の紹介記事に書いたので割愛して、つれづれなるままに感想など。
村の伝承に隠された真実を解き明かしていく“民俗学ミステリ”
前編は二章構成。第一章では禁足地とされる山中にある“忘れられた村”へ明治政府に加わるよう交渉するため訪れた吉野が、最初は拒絶されるも、ある事件を経て受け入れられるまでが描かれます。
そして第二章は、いよいよ村の謎に迫っていくお話ですが、これが非常に論理立っていて面白い。村から出ることを禁忌とする村の教え。山に入ることを禁忌とする麓の街の伝承。しかし10年前までは交流があったことを伺わせる事実。こういった込み入った事情を、吉野が村へ麓へと駆けずり回りながら、色々な人(主におっさん)と渡り合いながら情報を集め。一人思索し。そしてときには信頼のおける相手と語りながら情報と思考を整理。
この情報収集→思索→整理のプロセスを繰り返して真実に迫っていく流れが丁寧で、とくに整理の段階では(相手に聞かせる形で、自然に)これまでのおさらいも入るのが親切だなあと思いました。お話としても勿論面白いのだけど、どこかドキュメンタリーチックでもあり。
村の謎自体も、一見伝奇的、オカルトめいて感じられた事象が、資料と思索による光を当てていくことで本当の姿を見せていく過程が知的好奇心をくすぐります。バラバラだった情報が繋がって全体像が見えてくるクライマックスはワクワクしっぱなしでした。ネタバレなので核心は伏せますが、実際にこの時代に起きた事件と、過去に起きたであろう出来事が重なるあたりも興味深く。
ちなみに本作は前後編の前編で、前編でどこまで進むのかなー、と思いながら読んでいましたが、この村の謎、すなわち過去についての話は前編ですっきりと決着がつく感じ。後編はそれを踏まえた「この先」の話になりそうで楽しみです。
明治という時代の空気を感じるテキスト
「明治という時代の空気」とか言ってみたものの、自分自身それほど詳しいわけではありません。かつて読み囓った当時の文学やら、学生時代に嗜んだ近代史程度。なので「正確かどうか」は私には判断できませんが、「雰囲気」は凄く出てると思います。
それは文体なり、社会情勢や風俗といった小道具の面からもですが、何よりもキャラクターの考え方の面から。時代に取り残された村と明治を生きる吉野の対比によって明治という時代における「今の日本」への考察がありつつ、吉野とイギリス人であるアンジェリカの対話は19世紀末における「日本と世界」についても思いを馳せる内容で。
まあ、その中でも吉野やアンジェリカは進歩的な考えの持ち主だと思いますが、それでも医学の道半ばに軍人へと転じた吉野の述懐などからは、富国強兵という時代のキーワード(作中自体には出てきませんが)を感じ取ったりしました。
日本人形のような浮柚さんと西洋人形のようなアンジェが可愛い!
味のあるおっさんが多い作品ですが、なればこそ一服の清涼剤のようにも感じる、ヒロインの浮柚さんと、吉野の友人であるアンジェことアンジェリカの可愛らしさ。黒髪少女で巫女装束や着物が似合う浮柚さんは日本人形、金髪少女のアンジェは西洋人形のような趣で、二人が(というかアンジェが一方的に?)イチャイチャしてるシーンなどは異文化交流的にも違う意味でもぐっと来ました(笑)。
アンジェはドヤァ顔がとくに可愛らしく、かつキャラクターを象徴しているなぁと思ったり。情報収集、整理における頼れる相棒でもあります。思考の成熟度合いや、大人と一人で渡り合う点などを考えると、年齢はもっと上、ハイティーンから20歳前後くらいの方が設定的には自然のようにも思わないこともないのですが、でもやっぱり可愛いは正義!(いや、設定的な根拠があるかもしれませんが……)
追記。これについてはその後あらためて考えたり色々な話を聞いたりして、この時代、若い女性がどんどん勉強して大人と渡り合うのはおかしなことではない、という認識に至っています。
そして浮柚さんの妹の結那ちゃん。初邂逅時の、月を見上げるスチルが幻想的。この時点では伝奇ものという印象も強かったので赤い瞳から色々と想像を逞しくしましたが、吉野に懐いていく例のシーンあたりから、普通にいじらしく思うようになりました。吉野の、彼女を子供扱いしない態度も好ましく感じます。後編ではもっとコミュニケーション取れるようになるのかな。一方で、村が一歩先へ進むためのキーパーソンの一人でもあると考えられ、色々な意味で今後が楽しみです。
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