コミティア109作品感想メモ1 おねえちゃんとソラを目指すADV「おおきく澄みわたる、あの宇宙へ――Pre-trial disc」 ~lightでrightな正統派シスコンSF、その第一歩

  • おおきく澄みわたる、あの宇宙ソラへ――Pre-trial disc/少年舎(無料配布中)

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ロケットを飛ばす話ということで発表当時(もう1年半前なんですね……)から注目していた作品、通称おおすみ。コミティア109初出作品ですが、前回に引き続きWeb配布されたバージョンをプレイしました。というかコミティアに至ってはそもそも、当日起きたら13時半で行きそびれたという体たらく……本作含め気になる作品がちょこちょこあったので行けたらいくつもりだったのですが……。

さておき、Pre-trial discは1話テスト版と作品紹介のおまけシナリオで公称プレイ時間約45分という内容。1話では主人公達が地元の湘南から、本作のメインの舞台となるであろう種子島へ旅立つまでが描かれていました。

正統派SFの香り漂う現代史if的世界観

学生達が夢を追うというだけでも十分アツいのですが、それだけでなく「宇宙を目指すこと自体が禁忌となっている近未来」という世界観が個人的にぐっとくるポイント。主人公達を種子島へ呼んだ人物(早くに親を亡くした主人公達のあしながおじさん的存在)が今後キーパーソンになりそうですが、ロケットを飛ばすという目的が単に子供達の夢というだけでなく、かつて道を絶たれた大人達の願いにも繋がっていくのかなとか。どこまで話のスケールが大きくなるかは不明ですが、主人公達の夢と、世界にとっての希望がリンクしていったりしたら胸熱だろうなーとか(某科学アドベンチャー的中二発想)。

現代史ifものとしてもなかなか興味深く。2032年時点で東西冷戦が終結していない世界というものの政治学的なリアリティはわたくしには何とも言えませんが(知識不足)、その状況下で起きる宇宙戦争がGPS衛星の破壊とか、「ぱっと見地味だけど地味にキツイ」ものになるという話などは納得感がありました。人工衛星が機能しなくなった世界において代わりを務める「成層圏プラットフォーム」など、ガジェット的にもいい感じにSFっぽさがあります。

飛行船が人工衛星の代わりを務める世界
何万台もの飛行船が人工衛星の代わりを務める世界

テキスト面でも、空とソラの境界の話とか、「ミサイルが都市に降り注いだ日」とか、SF的なフレーバーにいちいち舞い上がってしまったり。10年前の戦争を経て、退廃とまではいかずとも閉塞感が漂う世界観といい、1話読んだだけでも正統派SFの香りを感じてワクワクする内容でした。

とはいえ、それらがギャルゲー的・ライトノベル的なテキストの上に乗っかっているので堅苦しさは全くなく。図解やアニメーションを駆使したわかりやすい解説なんかもちょいちょい挟まれていて、プレイヤーに対して親切丁寧、かつテーマに対して真摯だなぁ……という印象。自分みたいな「興味はあるけど知識はほぼゼロ」という者にとっては非常にありがたいですねぇ……。

ペンシルロケット射出実験の図。射出のアニメーションもあったりで、とってもわかりやすい!
ペンシルロケット射出実験の図。射出のアニメーションもあったりで、とってもわかりやすい!

お姉ちゃんかわいいよお姉ちゃん

とまあ、SF的にもぐっと来る作品であることは間違いないのですが、本作のもう一つの柱はやはり主人公・糸川与一君の姉、糸川美宇さんですね。夢に向かって邁進するけどドジっ子のお姉ちゃん可愛い!そしてそんな姉を少し呆れつつもとても大切にしていて、でも家族だから女性として意識しないと言いつつしっかり意識しちゃってる与一君も可愛い(笑)。どちらかというと二人の信頼と親愛の関係性が見ていて心地よい、という感じでした。

そもそもの本作メインテーマである「高度36,000km(静止軌道)を目指す」という二人の夢も、最初は「天国があるとしたら、きっとそこだから」という子供らしい考え込みでの物だったのが(それでも、10歳に満たない子供が「空から地上をずっと見守れる場所」を科学的に考察するあたりはなかなか聡いのですが)、その核は変わらずとも「母の夢を継ぐため」とより現実的な理由に根ざしたものに変化していたりと、お姉ちゃんドジっ子だけど浮世離れしてるわけではない所も個人的にはポイント高かったです。

与一君の「静止軌道にまだ天国があるって信じてる?」という問いへの答え。これでまだ信じてたらちょっと引くところでしたが(汗)、意外と現実的。でも……
与一君の「静止軌道にまだ天国があるって信じてる?」という問いへの答え。これでまだ信じてたらちょっと引くところでしたが(汗)、意外と現実的。でも……
夢を語るお姉ちゃんかわいい
夢を語るお姉ちゃんかわいい

あとは与一君のクラスメイトであからさまに与一君好き好きオーラ出ててるあやめが、それがゆえに与一君を危ないことに引っ張り回している(ように見える)美宇さんに反発するのですが、それに対する美宇さんの返しも良かったですね……。与一にもっと普通の学生らしいことをさせてあげて、というあやめに対して、ロケットのことは諦められない、けどだからこそ、「私にできないことを教えてあげてください」って、うわー覚悟の人だ。そしていいお姉ちゃんだ……!

というか、あやめ自身もすごくいい子なんですが、おまけシナリオや公式サイトでの扱いを見ているとサブヒロインですかね。ロケットと関係していないとメインヒロインになれない世界……恐ろしい……。

今後の展開が楽しみな「プロジェクトおおすみ」

という感じで、1話本編ではまだメインヒロインの残り2人は出てこないのですが、おまけシナリオの方で紹介がありました。アメリカっ子、ロシアっ子ということで1話プレイ前に軽くキャラ紹介とか見たときは「国際色豊かだなー」くらいの感想だったのですが、東西冷戦が続いている世界と知った今では全く違う意味を持ってきますね……本編での登場が楽しみです。

おまけシナリオでの紹介によるとギャルゲー的にルート分岐するようですが、この時「ヒロイン」と「そのルートで作るロケット」が対になってるというのがまた本作らしいなあと(笑)。あとおまけシナリオでもちらっと出てきましたが、現状対応するヒロインが発表されていない日本版スペースシャトルHOPEが気になりますね。公式サイトでのメカニック紹介では脇に謎の少女?ロボ?が描かれていたり。3シナリオ読了後に解放されるグランドシナリオで、現実には凍結されたコレを皆で力を合わせて打ち上げる話とかになったら歴史ifものとしても熱いな……!とか勝手に妄想しています。

ヒロインとロケットが対になってるギャルゲー!色々な意味でアツい
ヒロインとロケットが対になってるギャルゲー!色々な意味でアツい

あと印象的だったのは音楽で、一部はフリー素材ですが「ここぞ」というシーンの曲はオリジナル(の、はず)。タイトル画面やプロローグの最後の曲が本作のメインテーマなのかな? 同じ旋律を、青空のように透明感のあるピアノから力強いストリングス、そしてオーケストラへと繰り返しながら展開していく感じがソラへと広がっていく夢、集っていく仲間達を表しているようで聴き入ってしまいました。

さておき本作、通常のパッケージでのリリースの他に、2話以降もフリー公開の予定があるそうで、とくに美宇ルートは最後までフリーで公開されるとか。しかもWebブラウザー上でプレイ可能になるとのこと。演出は削られるとのことですが、吉里吉里製のノベルゲーのWeb配信ってどういう形になるんだろう?(AIRNovelやNScripterあたりはWeb配信環境ありますが)という点でもちょっと興味深いプロジェクトだったり(ノベルスフィアも吉里吉里と互換性高いようですが……)。色んな意味で今後も注目したい作品です。

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